YAMATO PROJECT

医療をキッカケに
地域を変える

やまとは、地域に頼られる医療機関とは地域の困りごとを助ける存在だと考えています。個人と医療、個人と地域、医療と地域はそれぞれ密接につながっており、医療機関がひとりひとりの患者さんだけではなく地域全体の不安や課題に向き合うことで地域をよりよくすることができると考えます。医療をキッカケに地域を変えようとしているやまとの取り組みの一部をご紹介します。

地方と都市を循環する地域ケアチーム

やまとプロジェクト

やまとの創設者・田上佑輔は「医者の本質」について、伝統的な集落のコミュニティをたとえに次のように述べています。「昔は集落に生活の知恵を持った中心人物がいて、薬草の使い方などをよく知り、みんなに頼られる存在でした。『医者の本質』とはそのような人と似ていて『困った人を助けること』にあると思っています。」

集落で知恵を持った人物が身近な人たちを助けるように、医者もまた目の前にいる患者さんに向き合い、ひとりひとりの身体を診ることにとどまらず、そこで暮らす人々がすこやかに過ごせるよう地域全体の多様な困りごとにも目を向け解決する。そのような想い・志を持つ医療者がチームとなり全国の地域を支えていく、在宅医療チームで取り組む地域ケア。その実現や推進のための創意工夫の集合体が「やまとプロジェクト」です。

多くの自治体が医師不足の解消のために地域の住みよさをPRしたり、移住支援策を打ち出しています。しかし実情は、地方に興味を持ちながら家族の教育や自身のキャリアへの不安などから断念する医師が少なくありません。「移住」のハードルは非常に高く、志を持つ医療者が集い、チームとなる際の障害となっていました。

このハードルを取り除くため、やまとは移住しなくとも都市部で暮らしながら地方で働けるスキーム作りに取り組んできました。クラウドやICTの活用により離れていても情報が共有できる仕組み作りや新幹線の駅付近など都市部とのアクセスのよい立地での診療所開設を通じ、現在、宮城県で勤務する医者の多くが東京との2拠点生活もしくは仙台から通勤しています。

地方では医師不足に加えて医療人材の流動性の低下と閉塞感も課題といえます。都市部に比べて多様な人々集まる場が少なく、閉鎖的な環境の中で継続的に新しいものを吸収したりモチベーションを維持していくことが相対的に難しい現状があります。その観点からは、大学や大病院がある都市部に生活拠点を持つことには大きな意味があり、地方と都市を循環することはそれぞれの、特に地方の地域を変えるために欠かすことのできないものと考えています。

在宅医療で地域創生をリード

「プラチナタウン構想」

(宮城県県北部地域)

やまとが診療所を展開する宮城県北地域では複数の自治体が消滅過程にあるとされ、その原因として過疎化による税収の減少と高齢化による介護福祉サービスの増大・支出増、人口構造に合わない医療サービスへの過剰な投資などが指摘されています。また、地域では住民の皆さんの「将来への漠然とした不安(特に健康や介護に関する)」が蔓延しており、どんなに非効率で効果的な医療が提供できない状態であっても、現存する「おらが町の病院」に精神的に依存しなければならない状況にあります。

日々の診療を通じて在宅ケアや看取りの文化を地域に醸成し、住み慣れた地域に「安心できる医療体制」があることを示せれば、住民の漠然とした不安の緩和ができます。また、そのようになれば公立病院の規模の適正化の議論や社会保障費の低減が進み、地域財政健全化の一助になり得ると考えています。地域の財政が健全化されれば、よりよく暮らせるまちづくりに歳費が回るようになり皆さんが愛する地域の魅力が増えることでしょう。

他地域からも「安心して生き、老い、そして終える」ことのできる地域と認識されるような地域を創りあげることができれば、移住や高齢化の緩和が促され、さらには医療や介護福祉・その他の産業の参入も見込まれます。

このような考えのもと、宮城県北部に勤務するスタッフが中心となり、日々の診療と並行して本構想について地域の多職種の方々や行政・首長・議員の皆さまとの勉強会や意見交換の場を設けながら「在宅ケアがリードする地域創生の実現」に取り組んでいます。高齢化社会と地方の過疎化、財政再建をテーマに描かれた楡周平氏の小説『プラチナタウン』を現実のものとするプロジェクト。法人内でも『プラチナタウン構想』と呼ばれています。

入院医療と在宅医療の1ヶ月の費用の比較
(医療区分2,ADL区分2,要介護3と仮定)
オンライン予診活用で社会要請に速やかに対応

在宅コロナワクチン接種

2021年の初夏にスタートした新型コロナウイルスワクチンの接種。集団接種や職域接種により接種率が向上しているという報道の陰で、接種会場に足を運べない在宅患者さんへの対応がなかなか進んでいないという実態がありました。交通手段が少なく高齢化率の高い「地方」はもとより、都市部でも同じような状況でした。

その背景には「在宅接種」を難しくする、ワクチンの次のような特徴があります。
・希釈が必要
・1バイアル6人分を希釈6時間内に接種しなくてはならない
・温度管理や希釈後の輸送による振動にも配慮が必要
・接種後15分以上の経過観察が必要
・接種可能かを判断する「予診」を行えるのは医師のみ

訪問診療を必要とする患者さんは外出機会は疾患を抱えた高齢者の方々が殆どです。新型コロナウイルスへの感染が命に直結することから、ワクチン接種を強く希望する人が多数いらっしゃいました。私たちは在宅診療の専門機関として、そのようなニーズを抱える患者さんへのワクチン接種を進めていきたいと考えてきましたが、通常の診療を疎かにすることもできません。 患者さんのために使える時間が限られるなか、わたしたちはできる工夫の一つとしてタブレット端末によるオンライン予診を導入しました。

医師が各世帯を訪問しワクチン接種を行うと、1日に接種できるのが最大12人程度と少数となります(滞在20分、移動10分として)。これに対し、医師はオンラインで予診を看護師が現地で接種する仕組みにすることにより、1日24~30人の接種が可能となりました。訪問診療の移動の車中などで/複数の場所にいる患者さんの予診に対応することで、通常の診療に大きな影響を与えることなくワクチン接種を進めることができています。

やまとでは平素からチーム診療の実践を通じICTツールの活用に取り組んでいたため「オンライン予診」の取組みはスタッフはもちろん、患者さんにもごく自然に受け入れられています。 やまとでの「オンライン予診」の取り組みが全国の先例となり、集団接種会場に行くことができない患者さんにワクチンが届いてくことを心から願っています。また、わたしたちの取り組みを通じて、集団接種会場に行くことができない人がたくさんいるということを多くの人が伝わることを期待しています。

よりタイムリーな医療提供が受けられる地域に

「NPプロジェクト」

(宮城県登米市)

「NP」(Nurse Practitioner)は養成コースのある大学院で医学と初期医療に関する実践を修了し、日本NP教育大学院協議会の試験に合格した看護師です。医師の指導のもとで定められた診断や傷口縫合など特定38行為ができ、看護はもちろん、医師と共通言語を持って診療にあたることで看護やケアの質の向上に貢献することが期待されています。

在宅医療は患者さんのお住まいを訪ねながら診療を行うため、病院の診察室や病棟のように効率よく多数の患者さんを診察することはできません。また皮肉なことに、在宅医療を必要とする方が多い地域ほど医療者が不足しているというジレンマがあります。僻地や医師不足がさらに深刻化した状況での持続可能な医療体制について考え、私たちは「NP」に焦点を当てました。

医師が患者さんから離れたところにいるなどの理由で往診に時間がかかってしまう場合に、より迅速(タイムリー)かつ安全に必要な対応/できる処置をすることが当院でのNPの大きな役割です。

また、予定外の往診により医師(と看護師、アシスタント)の訪問ルートが変更になると、他の患者さんの生活やスタッフの労務管理にも影響が出てしまいます。そのような在宅医療特有の事情があるなか、例えば夏期は熱中症による往診依頼が多発しますが、NPの出動により訪問ルートの頻回かつ大幅な変更を防ぐことができます。

NPの活用には多くの利点がある一方、現段階では診療報酬に反映される行為は一部にとどまり、在宅医療機関がNPを採用する障壁になっています。結果、在宅医療領域で活動しているNPは日本全国でもごくわずかです。また、現行制度上はあくまでも「看護師」であり、単独で薬剤の処方や検査のオーダーなどは行えません。このため「タイムリーに対応できない場面がある」と忸怩たる思いをするNPは少なくないようです。加えて、患者さんや多職種から「なぜ医師ではなく看護師が来るのか」というネガティブな反応を示されたことも決して少なくありません。このように、在宅医療領域でNPを一般化していくには乗り越えていかなければならない制度・ナラティブの壁が多数あります。しかし、国が進める「医師の働き方改革」による勤務医の残業規制や今後確実に訪れる多死社会を鑑みれば、NPの必要性はさらに高まるものと考えられます。在宅医療の経験豊富な医師が在籍するやまと在宅診療所登米をフィールドにNPの活躍モデルを徐々に構築し、より持続可能性の高い地域医療体制づくりの新しい切り札としたい考えです。

医療提供に関する現行の規制 厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング(2019年7月26日)」における日本看護協会プレゼンテーション資料へリンクします。

都市部ならではの地域課題に挑む

認知症になっても楽しく暮らせる街

(神奈川県)

やまとは地方と首都圏で在宅診療を行っており、地方のみではなく都市部ならではの地域課題にもアプローチをしていこうとしています。
都市部には次のような特徴があり、暮らしにくさや不安を感じている方々がいます。

・少人数世帯が多く、老々介護や独居高齢者、夫婦ともに認知症等のケースが多い
・セキュリティの高い集合住宅が多く、近所付き合いが希薄になりやすい
・人口が多く「超・高齢化社会/多死社会」を目前に救急医療体制のひっ迫や「看取り難民」問題の顕在化が速い

このようななか神奈川県の診療所では(やまと診療所日吉/武蔵小杉)では認知症になっても障害を抱えても楽しく暮らせる街づくりを目指した活動をしています。
具体的には、日々の診療活動に加え、地域の在宅診療所や多職種の皆さま/行政/法人会/住民の方々と関わり、力を合わせて仕組み作りや啓発のための講座などを行っています。


●地域での講演会・勉強会
テーマ例「独居の在宅看取り」「VRを使った認知症体験」「社会的処方を知ろう(街のつながりを「お薬」に変える)」など
やまと診療所日吉主催の勉強会についてはこちら
https://hiyoshi.yamatoclinic.org/category/omc/
やまと診療所武蔵小杉主催の勉強会についてはこちら
https://musashikosugi.yamatoclinic.org/category/blog_category_02/

●港北区の在宅医有志との協働(「チーム港北」)
港北区などで在宅医療に関わる医師・看護師・ケアマネージャー・薬剤師・ヘルパー・栄養士などの多職種が掲示板や メッセージなどを用いて情報共有を行う仕組み「港北ネット」を用いた取り組みに参加しています。
https://ptl.iij-renrakucho.jp/teamkohoku/

●地域法人会や行政との協働
法人会との診療中の車両駐車スペース共有(22年2月現在協議中)など

大学・診療所と連携し地域で在宅医を育てる

宮城在宅・緩和ケア包括教育プログラム

緩和ケア・在宅ケアの目的であり特性でもある「病気だけではなく、 患者さんの生活全体をケアする」という技術には正答がなく、 患者さんの生活スタイルや嗜好、 今後の人生をどう生きたいかという希望、 それを支えるご家族や介護環境によって求められるケアの形は異なります。 そのため指導方法や到達目標の設定、 能力測定が難しく、 育成する側が「どのように教えていいのかわからない」と悩むケースも少なくありません。結果、 系統的で安定した指導を受けた人材や受けることができる機会が少ないという実態があります(宮城県内の在宅療養支援施設数160施設に対し、在宅医療学会認定専門医は12名 2021年10月現在)。

このような状況に対し、やまとは宮城県北全体をカバーする在宅専門医療機関として、 また専門医育成の学会認定施設として医師の育成を行ってきましたが、地域によるケアの違いや積極的な研究活動に限界を感じていました。

この想いは同じ宮城県の都市部で在宅診療を行っている岡部医院様(仙台市)も同様でした。また東北大学の緩和医療学分野でも病院完結型の緩和ケアや研究活動のみではなく、 地域・在宅における活動の必要性が議論されていました。

この三者が連携し、それぞれの特性や得意分野を活かした教育の場を提供することで、 地域での活躍を志す医療人材の成長を促進することができ、地域に関わる医師が増えるー。そう考え、2021年10月、わたしたちは医療職の採用・教育においての協働・連携に合意しました。

まずは、 実践的な緩和・在宅・終末期ケアを学びたい医師を募り、 最短1年半で緩和医療学会認定医と在宅医療学会専門医が取得できる研修プログラムをスタートさせます。

連携の目的と各施設の特徴(PDF資料)

募集ページ